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銀行の相続手続きに明確な期限はない?放置するリスクと関連する期限

「亡くなった家族の銀行口座、相続手続きはいつまでに済ませればよいのだろうか?」というご質問をよくいただきます。結論から申し上げますと、銀行口座の相続手続きそのものに、法律で定められた明確な期限はありません。
しかし、この「期限がない」という事実こそが、相続における落とし穴になり得ます。手続きを先延ばしにすると、思わぬリスクやトラブルに見舞われる可能性があり、たった一つの遅れが連鎖的に法務・税務上の問題を引き起こすことさえあるのです。
この記事では、基本的な手順ではなく、銀行の相続手続きを放置することの具体的なリスクと、相続人が必ず知っておくべき法律上の厳格な期限について、解説します。
銀行の相続手続きに法的な期限はない
預貯金の名義変更や解約といった銀行での相続手続きには、「何ヶ月以内に完了しなければならない」といった法律上の規定は存在しません。
このため、多くの方が他の手続きを優先し、銀行での手続きを後回しにしがちです。しかし、この「いつでもできる」という安心感が、かえって問題を複雑化させる原因となるため、細心の注意が必要です。
手続きの期限はないが…放置が引き起こす6つの重大リスク
法的な期限がないからといって銀行の相続手続きを放置すると、実務上・金銭上のさまざまなリスクが生じます。これらのリスクは、単独で発生するだけでなく、互いに影響し合って問題を深刻化させます。専門家として、これらのリスクを大きく3つのカテゴリーに分けて解説します。それは、「手続きと人間関係」 を複雑化させるリスク、「直接的な金銭的損失」 につながるリスク、そして「深刻な法的問題」を引き起こすリスクです。
相続関係が複雑化するリスク
手続きをしないうちに相続人の一人が亡くなってしまうと、「数次相続(すうじそうぞく)」が発生します。これは、最初の相続手続きが完了する前に、次の相続が開始してしまう極めて厄介な状況です。
例えば、父が亡くなり、相続人が母と長男、次男の3人だったとします。父の預金手続きをしないうちに母が亡くなると、母が相続するはずだった権利は、母自身の相続人(この場合、長男と次男)へと引き継がれます。もし母に前婚の子がいたり、長男が先に亡くなってその子(孫)が相続人になっていたりすると、当初の相続に関係のなかった人物までが遺産分割協議に参加することになります。
これにより、関係者の数が雪だるま式に増え、合意形成が困難になるだけでなく、基礎となる「相続人調査」や「相続財産調査」も格段に複雑化します。相続人を一人でも見落とせば遺産分割協議そのものが無効になるため、手続き全体が暗礁に乗り上げるリスクが高まります。
「休眠口座」となり手続きが煩雑になるリスク
10年以上入出金などの取引がない預金口座は、「休眠口座(休眠預金)」として扱われる可能性があります。
休眠口座になっても預金が没収されるわけではなく引き出しは可能ですが、預金の管理が金融機関から「預金保険機構」に移管されることがあります。そうなると、通常の相続手続きよりも引き出しのプロセスが煩雑になり、時間も手間も余計にかかってしまいます。
口座管理手数料が発生するリスク
金融機関によっては、長期間利用されていない口座(未利用口座)に対して、口座管理手数料を課す場合があります。
故人の口座をそのまま放置しておくと、この手数料が預金残高から定期的に引き落とされ、相続人全員の共有財産であるはずの遺産が、意図せず目減りしてしまう可能性があります。
第三者による不正な引き出しのリスク
相続人が金融機関に名義人の死亡を連絡するまで、その口座は凍結されません。つまり、キャッシュカードと暗証番号を知っている人物がいれば、誰でも預金を引き出せてしまう危険な状態にあります。
これは悪意のある第三者による盗難だけでなく、他の相続人による無断の引き出しといった親族間トラブルの原因にもなります。大切な遺産を守るため、そして死亡した時点の預貯金の額を確定させ、正確な遺産分割と相続税計算を行うためにも、相続が発生したら速やかに金融機関に連絡し、口座を凍結してもらうことが極めて重要です。
相続放棄や限定承認ができなくなるリスク
私が特に警告したいのが、この「単純承認」のリスクです。相続財産に借金などマイナスの財産が多い場合、相続人は「相続放棄」や「限定承認」を選択できます。しかし、遺産分割協議が終わる前に故人の預金を引き出して使用してしまうと、法律上、すべての遺産を相続する「単純承認」をしたとみなされることがあります。
この場合、後から多額の借金が発覚しても、もはや相続放棄や限定承認を選択することはできません。予期せぬ負債をすべて背負うことになりかねない、非常に危険な行為です。財産全体の状況が明らかになるまでは、安易に預金に手をつけるべきではありません。
法律上の時効が成立するリスク
民法第166条では、債権(この場合は預金の払戻請求権)の消滅時効を原則5年と定めています。
現実には、金融機関が預金の払い戻しに対してこの時効を主張するケースはほとんどありません。しかし、法律上の権利として時効が成立する可能性はゼロではないという「法的脆弱性」が残ります。無用な法的論争の可能性を完全に排除し、いかなる法的曖昧さも残さないためにも、手続きは速やかに行うのが賢明です。
要注意!銀行手続きより優先すべき「期限のある」相続手続き
これまで述べた放置のリスクだけでも重大ですが、それらは相続全体に存在する、法律で厳格に定められた他の手続きの期限と照らし合わせることで、さらにその深刻さを増します。これらの法律上の期限は交渉の余地がなく、銀行手続きの先延ばしを事実上不可能にする、動かせないタイムリミットとなります。
特に、相続税の納付資金を故人の預金から支払う予定の場合は、納付期限までに銀行での手続きを完了させる必要があります。
- 相続放棄・限定承認 自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申し立てる必要があります。
- 準確定申告 被相続人の亡くなった年の所得税の確定申告です。相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に税務署へ申告・納付します。
- 相続税の申告・納付 被相続人の死亡があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限に間に合うように、遺産分割協議をまとめ、銀行の相続手続きを終えておく必要があります。
- 遺留分侵害額請求 遺言などによって最低限保証される相続分(遺留分)が侵害された場合に請求する権利です。相続の開始および遺留分が侵害されていることを知ってから1年以内に行う必要があります。
- 死亡保険金の請求 被保険者が亡くなった日から原則として3年間です。
葬儀費用など急な出費には「預貯金の仮払い制度」を活用
「口座が凍結されると、葬儀費用や当面の生活費が払えなくて困る」という切実な問題に対応するため、2019年の法改正で「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」が創設されました。これは、遺産分割が完了する前でも、相続人が当座の資金需要に対応できるように作られた戦略的な制度です。
この制度を利用すれば、相続人の一人が単独で、遺産分割協議が完了していなくても一定額の預金を引き出すことができます。これは、緊急の資金ニーズに応えつつ、他の相続人の権利も保護するというバランスを取った仕組みです。
引き出せる上限額は、「相続開始時の預貯金残高 × 1/3 × 払戻しを行う相続人の法定相続分」 という計算式で算出され、かつ、一つの金融機関につき150万円までと定められています。緊急の資金が必要な場合は、この制度の活用を検討しましょう。
まとめ
銀行の相続手続きに法律上の明確な期限はありません。しかし、その事実を「後回しにして良い理由」と捉えるのは、相続において最も一般的で、最も高くつく過ちの一つです。
見てきたように、手続きの遅延は、数次相続による関係の複雑化、休眠口座化、そして何より相続放棄の権利喪失といった、取り返しのつかないリスクに直結します。さらに、相続税の申告・納付(10ヶ月以内)という絶対的な期限から逆算すれば、銀行手続きを無期限に放置できるわけではないことがお分かりいただけるでしょう。
相続は、精神的にも手続き的にも多くの困難を伴うプロセスです。だからこそ、専門家として強くお勧めします。ご家族が亡くなられ、少し落ち着かれたら、まず最初に行動を起こすべきは金融機関への連絡です。迅速に行動することで、遺産を確実に保護し、関わるすべての人々の負担を軽減し、法的な義務をストレスなく果たすことができます。それが、円満な相続への最も確実な第一歩なのです。



