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遺贈:「相続させる」との違いは?遺言書で知っておくべき相続手続きと税金への影響

遺言書を作成する際に必ず直面するのが、「遺贈する」と「相続させる」という二つの言葉です。どちらもご自身の財産を特定の誰かに引き継がせるための表現ですが、その法的な意味合い、そして残されたご家族に与える影響は全く異なります。
この二つの最大の違いは、財産を渡す「相手」を誰にできるかという点にあります。しかし、その違いは単なる対象者の範囲に留まりません。言葉の選択一つで、不動産の名義変更手続きの煩雑さや、課せられる税金の額が大きく変動し、場合によっては深刻なトラブルの火種となることさえあります。
この記事では、この二つの言葉が持つ法的な意味、手続きや税金への具体的な影響、そして遺言書を作成する上での実践的な注意点を、解説します。
遺贈とは
「遺贈」とは、遺言によって、特定の個人や法人・団体に無償で財産を譲り渡す行為を指します。これは遺言者がご自身の意思で財産を処分する、民法で定められた単独行為(相手方の同意を必要としない法律行為)の一つです。
一方で、よく似た表現に「相続させる」があります。これは、法定相続人に対して特定の財産を引き継がせる際に用いられ、法律上は「特定財産承継遺言」と呼ばれます。これは遺産の分け方を具体的に指定する「遺産分割方法の指定」の一種と解釈されます。
このように、両者は法的な性質が根本的に異なり、その結果として財産を渡せる相手の範囲、相続発生後の手続き、税務上の取り扱いに決定的な違いが生じます。この違いを理解せずに安易に言葉を選んでしまうと、残されたご家族に意図しないトラブルや金銭的な負担を残しかねません。
「遺贈する」と「相続させる」の最大の違いは「相手」
この二つの言葉を使い分ける最も基本的なルールは、財産を渡したい相手が誰か、という点にあります。
「相続させる」は法定相続人のみが対象
遺言書で「相続させる」という文言を使えるのは、財産を渡す相手が法定相続人の場合に限られます。例えば、「長男Aに甲不動産を相続させる」といった形で使用します。
前述の通り、これは法律上「特定財産承継遺言」とされ、遺産分割協議を経ずとも、遺言者の死亡と同時に指定された財産の所有権がその相続人に直接移転する、極めて強力な効力を持ちます。
「遺贈する」は誰でも対象にできる
一方、「遺贈する」という文言は、財産を渡す相手を誰にでも指定できます。法定相続人はもちろん、相続権のない親族(例:子の配偶者、子が存命の場合の孫)、長年お世話になった友人・知人、さらにはNPO法人や地方自治体といった法人格を持つ団体も対象にできます。
したがって、法定相続人以外の方へ財産を残したい場合には、「遺贈」が唯一の方法となります。
手続きと税金で比較!遺贈と相続させる旨の遺言の具体的な違い
「相続させる」と「遺贈する」の選択は、相続発生後の具体的な手続き、特に不動産の名義変更(登記)や税金に大きな影響を及ぼします。
不動産の登記手続き
不動産を承継する際の手続きには、実務上、見過ごせない大きな違いが存在します。
- 「相続させる」の場合: 財産を受け取る相続人が単独で所有権移転登記を申請できます。他の相続人の協力は一切不要なため、手続きを迅速かつ円滑に進められる点が最大のメリットです。
- 「遺贈する」の場合: 財産を受け取る人(受遺者)が法定相続人以外の場合、他の相続人全員、または遺言書で指定された遺言執行者と共同で登記を申請する必要があります。
【注記】法改正による変更点 改正不動産登記法(令和5年4月1日施行)により、遺贈によって不動産を取得する人が法定相続人である場合には、「相続させる」のケースと同様に、単独で登記申請ができるようになり、手続きが簡素化されました。
税金(相続税・登録免許税・不動産取得税)
課せられる税金の種類や税率にも、受遺者の立場によって明確な違いが生じます。
- 相続税: 法定相続人が財産を受け取る場合、遺言の文言が「相続させる」でも「遺贈する」でも、相続税の計算方法は同じです。 しかし、法定相続人以外の人が遺贈で財産を受け取った場合、その人が納める相続税額が2割加算されます。また、基礎控除額の計算に用いる法定相続人の数にカウントされず、生命保険金や死亡退職金の非課税枠といった特例も利用できません。
- 登録免許税: 不動産の名義変更時に法務局へ納める税金です。
- 法定相続人が「相続」または「遺贈」で取得した場合:不動産評価額の0.4%
- 法定相続人以外の人が「遺贈」で取得した場合:不動産評価額の2.0%(5倍の税率)
- 不動産取得税: 不動産を取得した際に一度だけ課される税金です。
- 相続により財産を取得した法定相続人は非課税です。
- 法定相続人以外の人が遺贈で不動産を取得した場合は、原則として不動産取得税が課税されます。
農地の承継
農地を承継する場合、手続きは遺言の文言よりも「誰が」取得するかによって異なります。
- 法定相続人が取得する場合: 「相続させる」「遺贈」のどちらの文言であっても、農業委員会の許可は不要です(ただし、届出は必要)。
- 法定相続人以外が取得する場合(遺贈):
- 特定遺贈(「〇〇の農地を遺贈する」など特定の財産を指定):農業委員会の許可が必要です。
- 包括遺贈(「全財産の3分の1を遺贈する」など割合で指定):農業委員会の許可は不要です。
権利の放棄
財産の受け取りを辞退(放棄)する方法も異なります。
- 「相続させる」の場合: 指定された特定の財産だけを放棄することはできません。受け取りを拒否するには、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継がない「相続の放棄」を家庭裁判所で行う必要があります。
- 「遺贈する」の場合: 遺言で指定された財産だけを放棄(遺贈の放棄)することが可能です。相続人としての地位には影響しません。ただし、包括遺贈の場合は相続と同様、すべての権利義務を承継するため、個別の財産のみの放棄はできません。
借地権・借家権の承継
借地や借家を承継する場合、両者には極めて重要な違いが存在します。
- 「相続させる」の場合
相続は被相続人の権利義務を包括的に承継するため、借地権・借家権を相続人が引き継ぐ際に、地主や大家(賃貸人)の承諾は不要です。 - 「遺贈する」の場合
遺贈による承継は、民法上の「賃借権の譲渡」(民法612条1項)にあたると解釈されます。そのため、原則として賃貸人の承諾が必要となります。万が一、承諾を得られない場合、賃貸借契約を解除されるという重大なリスクを伴います。
遺言書作成時の注意点:どちらの言葉を選ぶべきか
これらの違いを踏まえ、遺言書を作成する際は以下の点を必ず押さえてください。
法定相続人には「相続させる」が原則
法定相続人にご自身の財産を残したい場合は、原則として「相続させる」という文言を使いましょう。不動産登記が単独で申請でき、借地権等の承継もスムーズであるなど、残されたご家族の手続き的な負担を大きく軽減できます。
遺言でも侵害できない「遺留分」という権利
遺言書は遺言者の最終意思として尊重されますが、万能ではありません。民法は、配偶者、子(またはその代襲相続人)、直系尊属(父母など)といった一定の法定相続人に対し、最低限の遺産取得分を保障しています。これを「遺留分」といいます。
たとえ遺言で「全財産を愛人に遺贈する」と記したとしても、法定相続人は受遺者に対して自己の遺留分を侵害された額を金銭で支払うよう請求(遺留分侵害額請求)できます。遺留分を無視した遺言は、かえって相続人間の深刻な紛争を招く原因となるため、遺言作成時には必ずこの権利に配慮した内容にすることが肝要です。
受取人が先に亡くなった場合に備える「予備的遺言」の重要性
遺言書で財産を渡す相手として指定した相続人や受遺者が、万が一、ご自身(遺言者)よりも先に亡くなってしまった場合、その人に関する記載は効力を失います。その財産は、他の相続人全員による遺産分割協議の対象となり、ご自身の意思が反映されなくなってしまいます。
この事態を避けるために極めて有効なのが「予備的遺言」です。これは、「もしAが先に亡くなった場合は、Bに渡す」という第二の指定をあらかじめ遺言書に記しておくものです。
【文例】 「長男Aに甲不動産を相続させる。ただし、私より先にAが死亡した場合は、Aの子であるBに甲不動産を相続させる。」
このように記載しておくことで、万一の事態が起きてもご自身の意思を確実に実現でき、相続人間の無用なトラブルを未然に防ぐことにつながります。

まとめ:違いが一目でわかる比較表
これまでの内容を一覧表にまとめました。特に「遺贈」の場合は、受遺者が法定相続人か否かで取り扱いが大きく異なる点にご注意ください。
| 項目 | 相続させる旨の遺言 (法定相続人のみ) | 遺贈 |
|---|---|---|
| 対象者 | 法定相続人のみ | 誰でも可(法定相続人、第三者、法人など) |
| 不動産登記 | 単独申請 | 受遺者が法定相続人: 単独申請可 受遺者が法定相続人以外: 相続人全員(または遺言執行者)との共同申請 |
| 登録免許税(不動産) | 0.4% | 受遺者が法定相続人: 0.4% 受遺者が法定相続人以外: 2.0% (5倍) |
| 不動産取得税 | 非課税 | 受遺者が法定相続人: 非課税 受遺者が法定相続人以外: 課税対象 |
| 農地の承継 | 許可不要 (届出は必要) | 受遺者が法定相続人: 許可不要 受遺者が法定相続人以外: 包括遺贈→許可不要 特定遺贈→許可が必要 |
| 権利の放棄 | 相続全体の放棄が必要 | 特定財産のみの放棄が可能 (※包括遺贈の場合は相続全体の放棄が必要) |
| 借地権・借家権 | 賃貸人の承諾不要 | 賃貸人の承諾が原則必要 |
専門家への相談が安心への近道
「相続させる」と「遺贈する」。このわずかな言葉の違いが、法律上・税務上で大きな結果の違いを生むことをご理解いただけたかと思います。ご自身の意思を正確に遺言書に反映させ、残された大切なご家族が円満に相続手続きを進められるよう、遺言書の作成にあたっては行政書士といった専門家へ相談することを強くお勧めします。専門家は、ご意向を伺いながら、遺留分や予備的遺言といった将来のリスクにも配慮した、法的に万全な遺言書の作成をサポートします。


