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付言(ふげん)とは?法的効力がなくても書くべき理由と具体例

遺言書というと、多くの方は「財産を誰に残すか」を決める法的な文書をイメージされます。しかし、実務の現場でしばしば見落とされがちでありながら、円満な相続を左右する重要な要素があります。それが「付言(ふげん)」です。付言は法的効力を持たない単なるメッセージ――そう聞くと軽く思えるかもしれません。けれども、相続のトラブルの多くが“感情”から生まれることを考えると、その意味は決して小さくありません。
なぜその分け方にしたのか。家族へどのような想いを託したいのか。法律だけでは伝えきれない心の部分を補うのが付言の役割です。この記事では、遺言事項との違い、付言が争いを防ぐ理由、そして実際に使える具体例まで、専門家の視点で分かりやすく解説していきます。遺言書を「単なる手続書類」で終わらせないために、ぜひ最後までご覧ください。
「付言(ふげん)」とは何か?
遺言書の内容は、大きく分けて「遺言事項」と「付言事項」の2つに分類されます。この違いを正しく理解することが、第一歩となります。
遺言事項(法的効力あり)との違い
「遺言事項」とは、民法などの法律で定められた、亡くなった後に法的な強制力を持つ事項のことです。
- 主な内容: 財産の処分(遺贈)、認知、遺言執行者の指定など。
- 具体例: 「特定の不動産を長男に相続させる」「高級時計(ロレックスやウブロなど)を孫の〇〇に遺贈する」といった具体的な財産の行き先を指定するものです。
これらは、書かれた通りに財産を動かしたり、名義を変えたりする強い法律上の力を持っています。
付言の役割と法的拘束力について
対して「付言(ふげん)事項」とは、法的拘束力が一切ない、遺言者の自由なメッセージのことです。 「この家は売らずに守ってほしい」と付言に書いたとしても、相続人が売却することを法的に止める力はありません。
「それなら書く意味がないのでは?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。付言の真の役割は「相続人の感情に働きかける」ことにあります。なぜそのような分け方にしたのかという「理由」や、背景にある「想い」を遺言者自身の言葉で語ることで、法律だけでは解決できない遺族の心の納得を引き出すことができるのです。
なぜ付言が「争族」トラブルを防ぐのか?(3つのメリット)
法的効力がない付言が、実務において極めて重要視されるのには、主に3つの理由があります。
1. 財産配分の「理由」を説明し、納得感を生む
相続において、すべてを均等に分けることが必ずしも公平とは限りません。例えば「長年介護をしてくれた子に手厚くしたい」「家業を継ぐ子に資産を集中させたい」といったケースです。 ここで重要になるのが「バランスの考え方」です。特定の相続人に多く残す理由(介護への献身など)や、逆に少なくなった相続人への配慮(生前に住宅資金を援助した事実など)を付言で丁寧に説明しましょう。この「天秤の調整理由」が示されることで、不公平感は納得感へと変わります。
2. 家族への感謝と想いを直接伝える
遺言書は、あなたが亡くなった後に家族が目にする「最後の手紙」です。普段は照れくさくて言えない「ありがとう」や、家族の幸せを願う切実な想いを綴りましょう。専門家の立ち会いのもとで遺言書が開封される際、遺言者の温かい生の言葉に触れ、遺族が涙を流しながら「父(母)の意思を尊重しよう」と手を取り合う場面も少なくありません。
3. 遺言内容の円満な実現を促す(抑止力)
法律には「遺留分(いりゅうぶん)」という、残された家族に最低限保証された遺産の取り分があります。もし遺言内容がこの遺留分を侵害していても、付言で遺言者の強い願いが語られていれば、相続人は「せっかくの最期の願いを壊したくない」と、法的な請求(遺留分侵害額請求)を思いとどまることがあります。付言は、法的紛争を未然に防ぐ「心理的な抑止力」となりうるのです。
【事例別】想いが伝わる付言の具体例
具体的にどのような言葉を残せばよいのか、ソース資料を基にしたケース別の例文をご紹介します。
ケース1:同居して介護をしてくれた子供に自宅を継がせる場合
献身的な支えへの感謝と、日本の家族文化において重要な「役割」を託す文例です。
【付言】 妻の死後、長女の〇〇は私と二人で暮らし、私が要介護状態になってからも献身的に支えてくれました。〇〇には、今後も代々伝わるお墓を責任持って守ってもらいたいということ、そしてこれまでの看護への感謝を込め、自宅の土地と建物を相続させることにしました。みんなで争うことなく、これからも仲良く助け合って生きていくことを切に願っています。
ケース2:配偶者の老後を案じて全財産を相続させる場合
長年の連れ添いへの感謝と、子供たちが既に自立しているという「バランス」を強調する文例です。
【付言】 長年連れ添ってくれた妻の花子には、心から感謝しています。妻も高齢になり、今後の生活に不安がないように、すべての財産を妻に遺すことにしました。子供たちはそれぞれ既に自立して立派に生活しており、私のこの気持ちを汲んでくれると信じています。どうか遺留分の請求などはせず、お母さんを大切にして、これからも仲良く支え合ってください。これが私の最後のお願いです。
ケース3:家訓や「家族の絆」を強調したい場合
代々の教えを伝え、精神的な柱を遺す文例です。
【付言】 我が家には「情けは人のためならず」という家訓があります。私も父から教わったこの言葉を大切に生きてきました。財産の分け方は遺言の通りですが、何より大切にしてほしいのは家族の絆です。これからの長い人生、困っている人がいれば率先して手を差し伸べる、そんな温かい家族であり続けてほしいと願っています。みんな、本当にありがとう。
付言を書く際に守るべきこと
付言は自由なメッセージですが、専門家の視点から、書く際に必ず守っていただきたい注意点があります。
1. ポジティブな表現を心がける
特定の相続人への批判や「あの時助けてくれなかった」といった恨み言を書くのは避けるべきです。遺言書は銀行員や士業など、多くの第三者の目にも触れるものです。人前で非難されたと感じた相続人の感情は硬化し、かえって紛争を激化させる逆効果になりかねません。
2. 遺言事項の後に記載する
通常、遺言書の末尾に【付言】として記載します。法的な指示(遺言事項)と、個人的なメッセージを明確に区別することで、相続人が内容を誤解して手続きが混乱するのを防ぎます。
3. 分かりやすい「自分自身の言葉」で
法律用語や難しい形式は必要ありません。あなた自身の日常の言葉で綴るからこそ、その「声」が家族に届きます。飾らない言葉こそが、最も遺族の心を動かします。
4. 葬儀や献体などの希望には注意が必要
葬儀の方法、献体、尊厳死、臓器提供といった希望を付言に書く場合は、大きなリスクを伴います。なぜなら、遺言書が発見・開封されるのは、往々にして四十九日が過ぎた後など、亡くなってから数週間、数ヶ月経ってからであることが多いからです。こうした「死後すぐ」に実行が必要なことは、付言だけに頼らず、必ず生前に信頼できる家族へ直接伝えておくか、別途「死後事務委任契約」などを検討する必要があります。
まとめ
付言は、単なるメッセージではありません。相続人の感情に寄り添い、遺言内容の納得感を高め、争いを未然に防ぐための重要な“仕上げ”です。どれほど適切な財産配分をしていても、その理由や想いが伝わらなければ、遺族の心にしこりを残してしまうことがあります。遺言書は法律文書であると同時に、ご家族へ向けた最後の意思表示でもあるのです。
とはいえ、遺言事項と付言事項の整理、法的に有効な形式の確保、遺留分への配慮など、専門的な検討が必要な場面も少なくありません。ご自身で作成することも可能ですが、「確実性」と「安心」を重視するなら、専門家の関与が大きな意味を持ちます。
行政書士は、法的に有効な遺言書作成のサポートはもちろん、付言の表現や内容についても実務的な視点から助言が可能です。将来のご家族の負担を減らし、あなたの想いを確実に届けるために、遺言書の作成をご検討の際は、どうぞお気軽にご相談ください。早めの準備が、何よりの円満対策となります。


