死因贈与: 相続との違いと遺贈との比較

「自分が亡くなった後、特定の人に財産を確実に渡したい」と考えたとき、多くの方が遺言書による「遺贈」を思い浮かべるかもしれません。しかし、財産承継の方法には「死因贈与」という選択肢もあります。

死因贈与は遺贈とよく似ていますが、その性質は大きく異なります。両者の違いを理解しないまま選択すると、税金の負担が増えたり、意図しないトラブルを招いたりする可能性があります。

本記事では、「死因贈与」の基本的な仕組みから、相続や遺贈との明確な違い、メリット・デメリット、そして活用すべきケースまで、解説します。

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目次

死因贈与とは

死亡によって効力が生じる「契約」

「死因贈与」とは、贈与者(財産をあげる人)と受贈者(財産をもらう人)との間の合意(契約)に基づいて、「贈与者が死亡したときに、特定の財産を無償で渡す」ことを約束する法律行為です。

最も重要なポイントは、死因贈与が「契約」であるという点です。遺言のように一方的な意思表示ではなく、財産を渡す側と受け取る側の双方の合意があって初めて成立します。

この契約は口頭でも成立しますが、贈与者が亡くなった後で「言った、言わない」というトラブルになることを避けるため、契約書として書面に残し、可能であれば証明力の高い「公正証書」で作成することを強く推奨します。

死因贈与は、長年にわたり介護をしてくれた親族や、内縁の配偶者など、法定相続人以外の人に確実に財産を渡したい場合に有効な手段として利用されます。

死因贈与・相続・遺贈の違いを比較

死因贈与、相続、遺贈は、いずれも人の死亡によって財産が移転する点では共通していますが、その法的性質や手続きは全く異なります。まずは全体像を把握するために、主な違いを一覧表で確認しましょう。

項目死因贈与遺贈相続
法的性質契約単独行為法律に基づく権利
当事者の意思双方の合意が必須遺言者の一方的な意思表示当事者の意思は不要
形式不要(口頭でも可)
※ただし書面化を強く推奨
厳格な要式の遺言書が必須不要
年齢制限(与える側)原則18歳以上
(未成年者は法定代理人の同意が必要)
15歳以上制限なし
撤回(与える側)原則可能
※負担付で履行済の場合は制限あり
いつでも可能不可
放棄(もらう側)原則不可可能可能
不動産の仮登記可能不可不可

それぞれの違いを正確に理解することが、最適な方法を選択する第一歩です。以下で詳しく解説します。

根本的な違い:契約か、法律に基づく権利か、一方的な意思表示か

この3つの方法の最も根本的な違いは、その成立根拠にあります。

  • 死因贈与: 贈与者(あげる側)と受贈者(もらう側)の双方の合意によって成立する「契約」です。
  • 相続: 遺言がない場合に、民法の規定に基づいて財産が自動的に法定相続人に移転する、法律に基づく権利です。当事者の意思は介在しません。
  • 遺贈: 遺言書によって、財産を渡す側が一方的な意思表示で行う「単独行為」です。受け取る側の事前の合意は不要です。

形式と手続きの違い

求められる形式や手続きも大きく異なります。

  • 死因贈与: 遺言のような厳格な形式は法律で定められていません。口頭でも成立しますが、トラブル防止のため契約書の作成が推奨されます。この柔軟性は手軽さにつながる一方、安易な口約束は紛争の火種となります。
  • 相続: 生前に特別な手続きは不要です。被相続人の死亡により、法律の規定に従って自動的に権利が発生します。
  • 遺贈: 法律で定められた厳格な形式の遺言書が必須です。自筆証書遺言や公正証書遺言など、定められた要件を満たしていない遺言書は無効になるリスクがあります。

年齢制限の違い

財産を渡す側の年齢にも違いがあります。

  • 死因贈与: 「契約」という法律行為であるため、贈与者は原則として18歳以上である必要があります。ただし、未成年者であっても法定代理人(親権者など)の同意があれば、有効に契約を締結できます。
  • 遺贈: 遺言能力が認められる15歳以上であれば、単独で有効な遺言書を作成できます。

撤回や放棄の可否

一度決めた内容を取り消せるか(撤回)、または受け取りを拒否できるか(放棄)という点でも重要な違いがあります。

  • 撤回(渡す側):
    • 遺贈: 遺言者はいつでも自由に遺言書を書き直すことで、内容を撤回できます。
    • 死因贈与: 原則として遺贈の規定が準用され撤回可能ですが、「負担付死因贈与(例:介護を条件とする贈与)」で、受贈者がすでにその負担を履行している場合は、贈与者の一方的な撤回が制限される可能性があると最高裁判例で示されています。
  • 放棄(もらう側):
    • 遺贈: 受遺者(財産をもらう人)は、自分の意思で遺贈を放棄することができます。
    • 死因贈与: 契約であるため、受贈者は原則として一方的に放棄することはできません。 これは、贈与者にとって「確実に財産を受け取ってほしい」という意思を貫徹できる強力なメリットである一方、受贈者にとっては不要な財産であっても引き受けざるを得ない可能性があることを意味します。

税金の違い(特に不動産)

税金面、特に不動産を取得した場合の取り扱いは、どちらを選択するかの重要な判断材料となります。

まず基本的な知識として、死因贈与も遺贈も、原則として贈与税ではなく相続税の課税対象となります。

その上で、不動産を取得した際にかかる「不動産取得税」と「登録免許税」について、受贈者が誰であるかによって大きな違いが生じます。

【不動産取得時の税率比較】

税金の種類取得者遺贈死因贈与
不動産取得税法定相続人非課税土地・住宅: 3%
その他家屋: 4%
法定相続人以外土地・住宅: 3%
その他家屋: 4%
土地・住宅: 3%
その他家屋: 4%
登録免許税法定相続人0.4%2.0%
法定相続人以外2.0%2.0%

このように、法定相続人が不動産を受け取る場合、死因贈与は遺贈に比べて税負担が大幅に重くなるという重大なデメリットがあります。この点を理解せずに死因贈与を選択すると、本来不要であったはずの多額の税金を納めることになりかねません。

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死因贈与のメリット・デメリット

ここまでの比較を踏まえ、死因贈与のメリットとデメリットを整理します。

メリット

  • 確実性 双方の合意に基づく契約であり、受贈者は原則として放棄できないため、財産を確実に指定した相手に渡すことができます。
  • 柔軟性 遺言書のような法律で定められた厳格な方式が不要です。口頭でも成立するため、比較的簡易な手続きで約束を交わすことができます(ただし書面化は必須と考えるべきです)。
  • 権利の保全 不動産を贈与する場合、生前に「始期付所有権移転仮登記」を行うことができます。これにより、贈与者が第三者に不動産を売却してしまうといった事態を防ぎ、受贈者の権利を法的に保全できます。これは遺贈にはない大きな利点です。
  • 負担付契約が可能 「私の面倒を見てくれることを条件に、この家を譲る」といった「負担付死因贈与契約」を結びやすいのが特徴です。生前の義務履行を求める場合に適しています。

デメリット

  • 税負担の増加 法定相続人が不動産を受け取る場合、遺贈と比較して不動産取得税と登録免許税の負担が著しく大きくなります。
  • 合意の必要性 贈与者の一方的な意思だけでは成立せず、必ず受贈者の同意が必要です。
  • トラブルの可能性 口約束で済ませてしまうと、贈与者の死後に他の相続人との間で「そんな約束は聞いていない」といった紛争に発展するリスクが非常に高くなります。

死因贈与を活用すべきケース

以上のメリット・デメリットから、死因贈与は以下のような特定の状況で特に有効な選択肢となります。

  • 介護や身の回りの世話など、特定の義務(負担)を履行してもらうことを条件に財産を渡したい場合。
  • 内縁の妻やお世話になった知人など、相続人以外の人に、相手が放棄することなく確実に財産を受け取ってほしい場合。
  • 渡す財産が不動産であり、贈与者が心変わりして第三者に売却するなどのリスクを防ぐため、生前から仮登記をして受贈者の権利を確実に保全しておきたい場合。

死因贈与を進める際の3つの注意点

死因贈与を検討し、実行する際には、後々のトラブルを避けるために以下の3つの点に必ず注意してください。

① 契約書は「公正証書」で作成する

口約束は絶対に避け、必ず「死因贈与契約書」を作成してください。そして、その契約書は単なる私的な文書ではなく、公証役場で「公正証書」として作成することが最も確実です。公正証書にしておくことで、契約内容の証明力が高まり、偽造や紛失のリスクもなくなります。

② 不動産の場合は「執行者」を指定する

不動産を死因贈与する場合、贈与者の死後に所有権移転登記の手続きが必要になります。この手続きをスムーズに進めるため、契約書の中で「執行者」を指定しておくことが極めて重要です。執行者を指定しておけば、他の相続人全員の協力(実印や印鑑証明書など)がなくても、執行者と受贈者だけで登記手続きを進めることが可能になります。

③ 相続人の「遺留分」に配慮する

死因贈与も遺贈と同様に、他の法定相続人(兄弟姉妹を除く)に法律で保障された最低限の財産の取り分である「遺留分」を侵害する可能性があります。遺留分を大きく侵害する内容の死因贈与契約を結ぶと、贈与者の死後、他の相続人から「遺留分侵害額請求」という金銭の支払いを求める請求をされ、深刻なトラブルの原因となります。契約内容を決める際には、必ず他の相続人の遺留分に配慮しましょう。

まとめ

死因贈与は、「この人にだけは、確実に財産を残したい」という想いを形にできる、とても心強い制度です。
一方で、遺贈や相続とは仕組みが異なるため、選び方を間違えてしまうと、思わぬ税金がかかったり、残されたご家族との間でトラブルが起きてしまうこともあります。

「遺言書とどう違うの?」「自分の場合は本当に死因贈与が合っているの?」
こうした疑問を感じながらも、難しい言葉が多くて、なかなか一歩を踏み出せずにいる方も少なくありません。

特に、不動産を含む死因贈与では、

  • 契約書をどう書けばよいのか
  • 公正証書にした方がいいのか
  • 他の相続人に迷惑がかからないか


など、事前に確認しておくべきポイントが数多くあります。
ご自身だけで判断してしまうと、「もっと早く相談していればよかった」と後から気づくケースも実際にあります。

行政書士は、相続や遺言、死因贈与といった手続きを日常的に扱う専門家です。
制度の説明だけでなく、「どんなお気持ちで、誰に何を残したいのか」を丁寧にお伺いしながら、将来の不安や心配ができるだけ残らない形をご提案します。

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