相続人がいない土地の扱い方|制度の仕組みとトラブル回避のポイント

「亡くなった親の土地、相続する人がいない場合はどうなるのか?」
高齢化や単身世帯の増加により、いまこうした相談が全国的に増えています。結論から言えば、相続人がいない土地は最終的に国のものとなりますが、それは決して自動的に行われるわけではありません。家庭裁判所への申立て、相続財産清算人の選任、相続人調査や公告、特別縁故者の有無――手続きには1年以上かかり、誰も動かなければ土地は所有者不明のまま放置されてしまいます。

そしてこの「相続人がいない土地の放置」は、税金の滞納や周辺環境の悪化、さらには社会問題へと発展する深刻なリスクをはらんでいます。

本記事では、相続人がいない土地がどのように扱われるのか、その手続きの流れと放置によるリスク、さらには生前にできる具体的な対策まで、わかりやすく解説します。

「自分の土地が将来どうなるか不安」「相続人がいない場合の備えを知りたい」
そんな方に向けて、今知っておくべき重要なポイントをお伝えします。

目次

相続人がいない土地は最終的に国のもの(国庫帰属)になる

原則は「国庫」へ

民法第959条では、必要な手続きを経ても引き取り手が現れなかった財産は、国庫に帰属すると定められています。

「国庫に帰属する」とは、簡単に言えば財産が国の所有物になるということです。ただし、これは自動的に行われるわけではなく、後述する複雑な法的手続きがすべて完了した後の最終的な結末です。

「相続人がいない」と見なされる4つのケース

「相続人がいない」という状況は、単に「身寄りがない」場合だけを指すわけではありません。法律上、相続人が存在しないと扱われる「相続人不存在」には、主に以下の4つのケースがあります。

法定相続人が一人もいない

法定相続人とは、法律で定められた遺産を受け継ぐ権利のある人のことです。配偶者を筆頭に、子、親、兄弟姉妹の順で権利が認められていますが、これらの親族が一人も存在しないケースです。

法定相続人全員が相続放棄をした

相続財産には、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。そのため、相続人が自らの意思で「相続する権利」をすべて手放す(相続放棄する)ことがあります。法定相続人全員が相続放棄をした場合も「相続人不存在」となります。

法定相続人が相続欠格に該当した

相続人が被相続人(亡くなった方)を殺害しようとするなど、重大な不正行為を行った場合、法律により自動的に相続権が剥奪されます。これを相続欠格といいます。

法定相続人が廃除された

被相続人が、虐待や重大な侮辱などを理由に、特定の相続人から相続権を奪うことを家庭裁判所に請求し、認められる制度です。これにより相続権を失った場合も、相続人から除外されます。

では、土地が最終的に国のものになるまでには、具体的にどのような手続きが必要なのでしょうか。その複雑な流れを順を追って見ていきましょう。

土地が国庫に帰属するまでの流れ【全体像】

相続人がいない土地がすぐに国のものになるわけではありません。利害関係者からの申立てがあって初めて手続きが開始され、完了までには通常13ヶ月以上という長い期間を要します。

利害関係者による「相続財産清算人」選任の申立て

  • 誰が?:まず、亡くなった方にお金を貸していた債権者や、後述する特別縁故者、あるいは検察官といった利害関係者が、家庭裁判所に申立てを行う必要があります。
  • 何をする?:申立てが認められると、家庭裁判所は財産を管理・清算する「相続財産清算人」(通常は地域の弁護士が選任されます)を選びます。(なお、この役職は法改正により2023年4月1日から「相続財産管理人」から名称が変更されました)。この清算人が、亡くなった方の財産調査、借金の返済、財産の売却など、すべての手続きを代行します。
  • 費用は?:この手続きには費用がかかります。申立手数料(収入印紙800円)や官報公告料(約5,000円)に加え、財産が少ない場合は、申立人が数十万円から百万円程度の予納金を裁判所に前払いする必要があります。
  • つまり、債権者のような利害関係者がいなければ、この手続きは誰にも開始されず、結果として土地は法的に所有者不明の状態で放置されることになるのです。

相続人の捜索(公告)

  • 相続財産清算人が選任されると、家庭裁判所は「相続人はいませんか?」と呼びかける公式な知らせ(公告)を、国の広報誌である官報に掲載します。
  • この6ヶ月以上の公告期間で、相続人であると名乗り出る人が現れるのを待ちます。

特別縁故者への財産分与

「特別縁故者」とは?

法定相続人ではないものの、亡くなった方と特別な関係にあった人のことです。例えば、内縁の妻(事実婚のパートナー)や、長年にわたり献身的に療養看護をしてきた人などが該当します。

何ができる?

相続人が現れなかった場合、これらの特別縁故者は、相続人捜索の公告期間が終わってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てることで、残った財産の全部または一部を受け取れる可能性があります。

国庫への帰属

  • 借金の返済や特別縁故者への財産分与を終えても、なお財産が残っている場合、その財産が最終的に国庫に帰属します。
  • 重要なのは、土地や建物などの不動産は通常、相続財産清算人によって売却・現金化されるという点です。土地そのものではなく、売却されて現金化された後のお金が国庫に入ります。

この通り、手続きは非常に複雑で時間もかかります。では、もし誰も申立てをせず、土地がそのまま放置された場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

相続人がいない土地を放置する3大リスク

誰も相続財産清算人の選任を申し立てなければ、土地は法的な手続きに乗ることなく、所有者不在のまま放置されます。これには、個人だけでなく社会全体にとっても大きなリスクが伴います。

税金の負担は続く

土地の所有者が亡くなったからといって、固定資産税の納税義務はなくなりません。納税通知書が届かなくなるだけで、税金は発生し続けています。後々、清算手続きが始まった際に、延滞税を含めて請求されることになります。

管理責任と近隣トラブル

放置された土地は、雑草が生い茂り、害虫が発生したり、ゴミが不法投棄されたりする温床になります。建物があれば倒壊の危険も生じ、近隣住民との間で深刻なトラブルに発展する可能性があります。万が一、倒壊した建物が隣家を傷つけたり通行人に怪我をさせたりした場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。

社会問題化する「所有者不明土地」になる

害関係者がおらず、清算手続きが開始されない土地は、登記簿上の所有者が亡くなったままの状態となり、誰にも管理されず、売買も活用もできない「塩漬け」の状態になります。これが、現在日本で深刻化している「所有者不明土地問題」の一因です。

このようなリスクを避け、自分の財産を希望通りに活かすためには、生前の対策が何よりも重要です。ここでは、今からできる具体的な方法を3つご紹介します。

生前にできる最適な対策3選

ご自身の財産を国のものにせず、また放置されるリスクをなくすために、生前にできる有効な対策があります。

遺言書で「想い」を託す

遺言書は、ご自身の意思を法的に実現するための最も強力なツールです。 これにより、法定相続人がいなくても、お世話になった友人や知人、応援したい慈善団体など、財産を渡したい相手を自由に指定することができます。遺言があれば、これまで説明してきた国庫帰属の複雑な手続きをすべて回避し、あなたの希望通りに財産を引き継いでもらえます。

特に、公証役場で作成する「公正証書遺言」は、法律の専門家である公証人が関与するため、法的な不備がなく、信頼性が非常に高い方法として推奨されます。

売却して「自由」を手に入れる

もし不動産の管理がご負担であったり、特定の方に遺すお考えがなかったりする場合には、ご自身の判断が明確なうちに売却して現金化することが、最も賢明な選択肢の一つです。

土地を現金に換えることで、将来の管理責任や固定資産税の負担から完全に解放されます。得られた資金はご自身の老後の生活費に充てることができ、より豊かな生活を送る助けにもなります。また、現金であれば遺贈や寄付もスムーズに行えます。

自治体などへ寄付する

社会貢献をしたいという想いがあれば、自治体などに土地を寄付することも選択肢の一つです。寄付が受け入れられれば、公園や公共施設用地などとして活用される可能性があります。

ただし、注意点として、自治体は活用が見込める土地しか受け取らないのが一般的です。管理が難しい土地や利用価値の低い土地の場合、寄付を断られるケースも多いため、事前に自治体へ相談することが不可欠です。

対策の比較表

ご自身の状況や希望に合わせて、最適な方法を選びましょう。

対策主なメリットこんな人におすすめ
遺言書・渡したい相手を確実に指定できる・国庫帰属を避けられる・お世話になった人や特定の団体に財産を遺したい人
売却・管理の手間や税金の負担から解放される・老後の資金を確保できる・不動産の管理が負担で、現金で資産を持ちたい人
寄付・社会貢献ができる・管理責任がなくなる・活用が難しい土地で、社会の役に立てたい人

【補足】相続土地国庫帰属制度との違い

2023年4月から始まった「相続土地国庫帰属制度」という制度があります。これは、土地を相続したものの、管理が大変で手放したい相続人が、一定の要件(更地であることなど)を満たした場合に、審査料と管理費を国に納めることで土地の所有権を国に移すことができる制度です。
この記事で解説している「そもそも相続人がいない」ケースとは対象者が全く異なります。この制度は、あくまで相続人が存在し、一度相続した後の選択肢であるため、混同しないように注意しましょう。

まとめ

この記事の重要なポイントを振り返ります

  1. 相続人がいない土地は、最終的には国のもの(国庫帰属)になります。 ただし、そのためには利害関係者による申立てから始まる、1年以上に及ぶ複雑な法的手続きが必要です。
  2. 誰も手続きをしなければ、土地は放置されます。 その結果、税金の滞納、近隣トラブル、そして社会問題化している「所有者不明土地」を生み出す深刻なリスクがあります。
  3. 最も確実なのは「生前の対策」です。

ご自身が築き上げた大切な財産が、意図せず放置されたり、国のものになったりするのを避けるために、今すぐ行動を起こすことが何よりも重要です。 遺言書で希望を託すか、売却してご自身の未来に活かすか。まずはその第一歩として、専門家への相談から始めてみましょう。

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