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自筆証書遺言のデメリットと法務局保管制度の注意点

「自分で手軽に書けるから」「法務局の保管制度もできたから安心だ」——。こうした理由で、自筆証書遺言の作成を検討されている方は少なくありません。しかし、その手軽さの裏には、相続手続きを完全に麻痺させ、愛するご家族を裁判所の調停にまで追い込む、数多くのデメリットやリスクが潜んでいます。
この記事では、日々相続実務に携わる専門家の視点から、自筆証書遺言が持つ具体的なデメリットと、一見すると万能に思える「自筆証書遺言保管制度」の知られざる落とし穴について、深く掘り下げて解説します。この記事ではメリットや作成方法にはあえて触れません。目的はただ一つ、安易な選択によって、あなたの死後、ご家族が苦労することを未然に防ぐための情報提供です。
自筆証書遺言が無効になる2つの大きなリスク
せっかく遺してくださった遺言書が、法的に「無効」と判断されてしまう。これは自筆証書遺言に常に伴う、最も避けたいリスクの一つです。遺言が無効になれば、あなたの想いは実現されず、遺産は法定相続人が法律に基づいて分けることになります。このリスクは、大きく「形式的な不備」と「内容的な不備」の2つの観点から生じます。
リスク1:法律で定められた形式の不備
自筆証書遺言は、民法で定められた厳格な要件を満たさなければ、その効力が認められません。一つでも要件を欠くと、遺言書全体が無効になる可能性があります。特に注意すべき形式的な不備は以下の通りです。
- 日付の記載漏れや曖昧さ: 「年月日」まで正確に記載されている必要があります。「令和〇年〇月吉日」といった記載では無効になる可能性があります。
- 全文が自筆でない: 財産目録を除き、本文がパソコンで作成されていたり、他人が代筆したりした部分は原則として無効となります。
- 署名・押印の欠如: 遺言者本人の署名と押印は必須です。どちらか一方でも欠けていれば、遺言書として認められません。
- 訂正方法の不備: 間違えた箇所を修正液や修正テープで消すことは認められていません。法律で定められた方式(訂正箇所の指示、変更部分への押印など)に従って訂正する必要があり、これを誤ると訂正そのものが無効になります。
リスク2:相続手続きを困難にする内容の不備
形式をクリアしても、次に立ちはだかるのが内容の不備です。極端に聞こえるかもしれませんが、相続手続きの実務家の感覚では、自筆証書遺言は内容に不備がある場合が多いのです。内容の不備は、遺言を無効にはしないまでも、その後の相続手続きを著しく困難にします。
遺言執行者の指定がないケース
最も多く見られる内容の不備が「遺言執行者」の指定がないことです。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う権限を持つ人です。この指定がないと、預金の解約や不動産の名義変更など、ほとんどの相続手続きが完全にストップしてしまいます。
- 家庭裁判所での手続きが必要: 原則として、家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立て」をしなければなりません。この手続きには数か月を要し、その間は預金の解約が一切できなくなります。
- 専門家への報酬発生: 裁判所によって弁護士などが遺言執行者に選任された場合、別途、専門家への報酬が発生します。
- 相続人の協力が得られない: 銀行によっては、相続人全員からの同意書を求められることがありますが、遺言によって財産をもらえない、あるいは取り分が減る相続人が手続きに協力してくれることは、事実上期待できません。
内容が曖昧なケース
次に多いのが、遺言の内容が曖昧で、法的に解釈が難しいケースです。
- 感情的な文言: 「残された家族で仲良く分けてほしい」といった想いを綴った文言は、法的な効力を持たず、かえって解釈を巡る争いの火種になります。
- 財産の特定ができない: 「北海道銀行の○○支店の預金」と書かれていても、口座番号を一桁間違えているだけで、銀行は手続きに応じてくれません。
- 財産の範囲が不明確: ゆうちょ銀行には「貯金」しかないのに、遺言書に「預金はすべて長男に相続させる」とだけ書かれている場合、その「預金」にゆうちょの「貯金」が含まれるのかどうかで争いになりかねません。
残された家族を苦しめる!手続き上の大きな負担と紛争リスク
たとえあなたの遺言書が、無効になるリスクを奇跡的に乗り越えたとしても、そこからご家族にとっては、新たな手続き上・感情上の試練が始まります。自筆証書遺言は、その存在自体が、残されたご家族に大きな負担や深刻なトラブルをもたらす危険性をはらんでいるのです。
紛失・改ざん・隠匿のリスク
自筆証書遺言は自分で保管するため、「紛失・盗難・隠匿・改ざん」のリスクが常に付きまといます。「厳重に保管しすぎて、いざという時に誰も見つけられない」というケースや、実務経験上「あったはずの遺言が出てこない」というご相談は、意外なほど多いのが実情です。財産を多くもらえる相続人が見つけて破棄したり、不利益を受ける相続人が隠してしまったりする可能性もゼロではありません。
遺言の有効性をめぐる紛争のリスク
自筆証書遺言は、他の遺言形式に比べて「無効確認を求める調停が行われるリスクが非常に高い」という致命的な特徴があります。あなたはご家族を紛争に巻き込むリスクを冒すことになります。遺言によって不利益を受ける相続人からすれば、以下のような疑念を抱きやすいからです。
- 誰かに強制されて書かされたのではないか?
- 認知症などで本人の判断能力がない状態で書いたのではないか?
- 他人がなりすまして書いた偽物ではないか?
- 誰かに手を添えられて、その人の意図通りに書かされたのではないか?
一度でも調停が申し立てられると、金融機関は紛争が解決するまで、その遺言書による預金解約手続きを完全に停止してしまいます。調停が不成立に終われば、相続人同士の関係は悪化し、遺産分割協議は長期化。「後味の悪い結果」となり、「その後、兄弟も口も利かないという状態」になりかねません。
相続人の大きな負担となる「検認」手続き
法務局に保管していない自筆証書遺言は、相続が始まった後、家庭裁判所での「検認(けんにん)」という手続きが法律で義務付けられています。この手続きが、残された相続人にとって大きな負担となります。
- 膨大な戸籍収集: 検認を申し立てるには、法定相続人全員を確定させる必要があります。そのためには、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をはじめ、相続人全員の戸籍謄本など、大量の書類を収集しなければなりません。これは大変な時間と労力を要する作業です。
- 申立てと待機期間: 必要書類を揃えて家庭裁判所に申し立てても、すぐに手続きが始まるわけではありません。「検認期日」が指定されるまで、1〜2ヶ月ほど待たされます。
- 相続人全員への通知と精神的負担: 裁判所から法定相続人全員に検認期日の通知が送られます。期日当日、相続人たちが集まった前で遺言書が開封され、その内容が「お披露目」される形になるため、関係者には相当な精神的負担がかかります。
要するに「検認」とは、家族内の私的な事柄を、家族が悲しみに暮れている時期に、公的でストレスの多い裁判所の手続きに移行することになります。
「法務局の自筆証書遺言保管制度」も万能ではない!知っておくべき注意点
こうした自筆証書遺言のデメリット、特に「紛失・改ざんのリスク」や「検認手続きの負担」を解消するものとして、法務局の自筆証書遺言保管制度が注目されています。しかし、この制度も万能な解決策ではありません。
専門家の見解として、この制度を利用しても「遺言書が自筆証書遺言であることに変わりはない」のです。法務局に保管したからといって、公正証書遺言のようにその信頼性が高まり、金融機関での手続きがスムーズになるわけではありません。そして、ここにはこの制度に関する最大の誤解があります。
- 内容の審査はしない: 法務局が行うのは、日付や署名があるかといった形式的なチェックのみです。遺言の内容が法的に適切か、曖昧な点がないか、相続トラブルの原因にならないかといった点までは一切審査してくれません。内容の不備によるリスクはそのまま残ります。
- 手続きの負担は残る(最大の落とし穴): 検認は不要になります。しかし、多くの人が期待する「家族の手間を省く」という目的は、実はほとんど達成されません。なぜなら、遺言の内容を実現するために法務局から「遺言書情報証明書」の交付を受ける際、結局は法定相続人全員を特定するための膨大な戸籍収集が必要になるからです。最も労力のかかる作業は、この制度を使っても残ってしまうのです。
- その他の手間: 制度を利用するには本人が法務局に出向く必要があり、また、引っ越しなどで住所や氏名が変わった場合に、その都度変更の届出をする手間もかかります。
まとめ:本当に安心できる遺言を作成するために
これまで解説してきたように、自筆証書遺言には、無効になるリスク、家族間の紛争を招くリスク、そして残されたご家族への手続き上の大きな負担など、数多くのデメリットが存在します。そして、法務局の保管制度も、これらの根本的な問題をすべて解決してくれるものではありません。
では、どうすればよいのでしょうか。専門家が推奨するのは、これらのデメリットをことごとく解消できる「公正証書遺言」を作成することです。
公正証書遺言が優れている理由は明確です。
- 法律の専門家である公証人が作成に関与するため、この記事で述べた形式や内容の不備で無効になるリスクがほとんどありません。
- 原本が公証役場で厳重に保管されるため、不満を持つ相続人による紛失や改ざん、隠匿の心配が一切ありません。
- 家庭裁判所での「検認」が不要であり、相続人を苦しめる膨大な戸籍収集も原則不要なため、相続開始後の手続きが極めてスムーズに進みます。
- 公文書としての信頼性が極めて高く、金融機関の対応も円滑で、相続人間の納得も得られやすいため、家族を争いに巻き込むリスクを大幅に減らせます。
あなたは、ご家族に安心を遺すために遺言を検討されているはずです。しかし、数多くの実例が示す通り、自筆証書遺言は、たとえ法務局に保管したとしても、しばしばその反対の結果を招きます。
「せっかく終活の一環として遺言を作成するなら、根本的に相続問題をなくすよう工夫する必要がある」と私たちは考えます。あなたの真の想いを、争いなく円満にご家族へ繋ぐために、専門家への相談は単なる出費ではありません。それは、ご家族の未来の平穏への投資です。遺言作成の実務経験が豊富な行政書士などの専門家に、一度ご相談されることを強くお勧めします。


