生活保護でも遺産相続できる?いくらまでなら受給を継続できるか

「生活保護を受けているけれど、親の遺産を相続することになったらどうなるのだろうか?」「相続したら、生活保護を打ち切られてしまうのではないか?」

生活保護を受給されている方やそのご家族にとって、遺産相続は突然訪れる大きな不安の種かもしれません。予期せぬ財産を前に、これからの生活がどう変わるのか、何をすべきなのか、戸惑うのは当然のことです。

この記事は、生活保護を受給されている方が遺産を相続する際の権利、注意すべき点、そして必ず守らなければならない手続きについて、専門的な知識を基に、できる限り分かりやすく解説していきます。正しい知識を身につけ、落ち着いて対応するための一助となれば幸いです。

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目次

生活保護を受けていても遺産相続する権利はある

まず、最も大切な結論からお伝えします。生活保護を受給しているという理由で、遺産を相続する権利が失われることは一切ありません。これは法律で保障された、誰にでもある当然の権利です。

その法的根拠は民法にあります。民法では「相続欠格者」として、相続する権利を失う特定のケースが定められていますが、その中に「生活保護の受給者」という項目は含まれていません。したがって、あなたが生活保護を受けているかどうかに関わらず、他の相続人と同様に遺産を相続すること自体には何の問題もないのです。

遺産相続で生活保護はどうなる?「停止」と「廃止」の違い

遺産を相続する権利はありますが、相続した財産によっては、その後の生活保護の受給資格に影響が出ることがあります。その影響は、大きく分けて「停止」と「廃止」の二つの可能性があります。この二つの違いを正しく理解しておくことが重要です。

「受給の停止」

「停止」とは、一時的に生活保護の支給が中断されることを指します。これは、相続した財産が比較的少額で、その財産を生活費に充てても、近い将来(一般的に6か月以内と予測される場合)に再び保護が必要な状態に戻ると判断された場合に適用されることが多い措置です。停止期間が終了し、再び生活に困窮する状況になれば、支給は再開されます。

「廃止」

「廃止」とは、生活保護の受給資格そのものが失われることを意味します。相続した財産によって、長期間(一般的に6か月以上)自立した生活を送ることができると判断された場合に適用されます。この場合、受給者ではなくなるため、税金の免除などの支援も受けられなくなります。

ここで重要な点をお伝えします。たとえ生活保護が「廃止」されたとしても、それは永久的なものではありません。相続した遺産をすべて生活費として使い切り、再び生活に困窮する状況になった場合には、改めて生活保護の「再申請」を行うことが可能です。一度廃止されたからといって、二度と受けられないわけではないので、その点は過度に心配する必要はありません。

「いくらまでなら大丈夫?」生活保護に影響しない金額の目安

多くの方が最も知りたいのは、「具体的にいくらまでなら相続しても大丈夫なのか」という点でしょう。

まず前提として、法律で「〇〇万円までならセーフ」といった明確な金額の基準が定められているわけではありません。判断は個々の状況によって異なります。

しかし、実際の制度の運用上、一般的な目安となる基準は存在します。それは「1か月の生活保護費の6倍程度の金額」という考え方です。臨時的な収入があった場合でも、6か月以内に再び保護が必要な状態になると予測される場合は「停止」にとどまり、6か月を超えて保護を必要としない状態が続くと判断される場合に「廃止」となることが多い、という運用に基づいています。

具体的に計算してみましょう。例えば、1か月の生活保護費が13万円の方であれば、その6倍である78万円が目安となります。この場合、78万円までの現金や預貯金を相続したのであれば、生活保護が廃止・停止にならない可能性が高いと考えられます。

ただし、これはあくまで目安です。ご自身の現在の貯金額や生活状況など、個別の事情によって判断は変わってきます。5倍でも影響が出ることもあれば、7倍でも問題ないと判断されることもあるかもしれません。この「6倍ルール」は、一つの判断材料として捉えてください。

遺産の種類別:生活保護への影響

相続する財産は現金や預貯金だけとは限りません。財産の種類によって、生活保護への影響は異なります。ここでは主な財産の種類別に解説します。

現金・預貯金の場合

現金や預貯金は、最も直接的に生活費として活用できる資産です。そのため、前述した「1か月の生活保護費の6倍」という目安が最も適用されやすいのがこのケースです。相続した金額がこの目安を大きく超える場合は、生活保護が廃止される可能性が高くなります。

不動産(家や土地)の場合

不動産を相続した場合、その不動産をどのように利用するかによって扱いが変わってきます。

受給者が現在住んでいる自宅を相続する場合

ご自身が今住んでいる家を相続する場合は、その家は生活の基盤として「活用」されている資産と見なされます。そのため、資産価値が著しく高額でない限りは、そのまま住み続けることが認められるケースが多く、生活保護の受給に影響しない可能性が高いです。

住んでいない家や土地を相続する場合

ご自身が住んでいない空き家や土地など、居住用でない不動産を相続した場合は、原則として売却して生活費に充てるよう指導されます。特に資産価値が高く、売却が容易な不動産の場合は、生活保護が打ち切られる可能性が非常に高くなります。 ただし例外として、価値が低く買い手がつかないような田畑や山林、処分するのにかえって費用がかかるような遠隔地の老朽化した家屋などは、資産として活用することが困難であるため、保有が認められ、問題にならない場合もあります。

自動車の場合

生活保護制度では、受給者の自動車の所有は原則として認められていません。自動車は資産と見なされるだけでなく、維持費もかかるためです。したがって、自動車を相続した場合は、売却して生活費に充てるよう指導され、生活保護が打ち切られてしまう可能性が極めて高いと言えます。

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最も重要な義務:ケースワーカーへの報告

遺産相続において、生活保護受給者の方が絶対に守らなければならない最も重要な義務があります。それは、相続した財産の種類や金額の大小にかかわらず、担当のケースワーカーや福祉事務所へ速やかに報告することです。

これは、生活保護法第61条に定められた「届出の義務」です。相続によって得た財産は「収入」と見なされるため、収入に変動があった場合は必ず届け出る必要があります。

「少額だから報告しなくてもバレないだろう」と考えてしまうのは、非常に危険です。なぜなら、福祉事務所(自治体)は、生活保護の申請時に提出された「金融情報開示の同意書」に基づき、金融機関に対して口座情報を一括で照会する権限を持っているからです。つまり、あなたの口座の動きは、行政側がいつでも確認できる状態にあるのです。遺産が振り込まれれば、いずれその事実は発覚します。隠し通すことは不可能だと考えてください。

もし報告を怠ったことが発覚した場合、それは「不正受給」と見なされ、厳しい罰則が科される可能性があります。

  • 生活保護が打ち切られる。 報告義務違反という理由で、受け取った遺産の金額にかかわらず、保護が打ち切られることがあります。
  • 保護費の返還を求められることがある。 相続が発生した時点(被相続人が死亡した日)に遡って、それ以降に受給した生活保護費の全額について、返還を求められることがあります。
  • 悪質な場合は、さらに重いペナルティが科される。 特に悪質と判断された場合、返還を求められる金額に最大で40%を上乗せした徴収金が科されることがあります。さらに、詐欺罪として刑事罰の対象となる可能性もゼロではありません。

正直に報告することが、ご自身の生活を守る上で最も賢明な選択です。

保護費の返還請求について知っておくべきこと

相続によって生活に十分な資産ができたと判断され、生活保護が打ち切りになった場合、過去に受給した保護費の一部の返還を求められることがあります。

ここで非常に重要なポイントがいくつかあります。まず、返還の対象となるのは、あくまで「被相続人が死亡した日以降に受給した保護費」です。相続の権利が発生した日以降の保護費が対象であり、それより前に正当に受給していた分を遡って返還する必要はありません。

返還額には、毎月の生活費や家賃だけでなく、病院にかかった際の医療費(医療扶助)も含まれることを覚えておきましょう。特に高額な治療を受けた場合、医療費は大きな金額になるため注意が必要です。ただし、精神疾患の治療などで「自立支援医療」のような生活保護とは別の制度から医療費が支払われている場合、その費用は返還の対象にはなりません。

さらに、覚えておくべきことは、相続財産から保護費を返還する際に、相続手続きにかかった必要経費を差し引ける場合があるという点です。例えば、司法書士や弁護士に支払った手続き費用や、不動産の登記にかかった費用などは、経費として認められることがあります。そのため、相続手続きで支払った費用の領収書は必ず保管しておくようにしてください。

相続放棄はできるのか?注意すべき点

生活保護を受けている方でも、家庭裁判所で「相続放棄」の手続きを行うこと自体は可能です。

ただし、これには大きな注意点があります。生活保護制度は、「利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用すること」を大前提としています。

もし、借金などのマイナスの財産がないにもかかわらず、プラスの財産があるのに、生活保護の継続だけを目的として相続放棄をした場合、この「資産を活用する」という要件に反すると見なされる可能性があります。その結果、本来得られるはずだった資産を意図的に放棄したと判断され、生活保護を打ち切られてしまう恐れがあるのです。

法律上、相続放棄は個人の意思が尊重される「身分行為」とされており、最高裁判所もその自由を認める判断を示していますが、それが生活保護の受給資格にどう影響するかは別の問題として考えなければなりません。

相続放棄が問題ないとされるのは、主に以下のようなケースです。

  • 明らかに借金などマイナスの財産がプラスの財産を上回る場合。
  • 処分が困難で、持っていても固定資産税や管理費用の負担が増えるだけの不動産(例:買い手のつかない遠隔地の古い家など)を相続する場合。

結論として、相続放棄を検討する際には、絶対に自己判断してはいけません。手続きを進める前に、必ず担当のケースワーカーに事情を説明し、相談することが不可欠です。

まとめ:生活保護の遺産相続で覚えておくべき3つのポイント

最後に、生活保護を受けている方が遺産相続に直面した際に、必ず覚えておいていただきたい最も重要なポイントを3つにまとめます。

  1. 生活保護を受けていても、遺産を相続する権利は誰にでもある。 生活保護の受給を理由に、相続権がなくなることはありません。
  2. 目安として「生活保護費の6か月分」を超える遺産を相続すると、保護が停止または廃止される可能性がある。 これは法律上の決まりではありませんが、実務上の重要な目安となります。
  3. 遺産を相続したら、金額にかかわらず、必ずケースワーカーに報告しなければならない。 これは法律で定められた義務であり、報告を怠ると厳しい罰則につながる可能性があります。

遺産相続は、法律や手続きが絡む複雑な問題です。もし少しでも不安なことや分からないことがあれば、一人で悩まず、まずは担当のケースワーカーに相談してください。そして、必要に応じて、私たち行政書士等専門家の力を借りることも大切です。正しい知識と手続きで、この大切な局面を乗り越えていきましょう。

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