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遺言執行者: 相続人との関係と注意点

遺言執行者は、遺言書の内容をスムーズかつ故人の意思通りに実現するために、非常に重要な役割を果たします。しかし、その権限や相続人との関係については、誤解されている点も少なくありません。この記事では、遺言執行者の役割、遺言執行者がいる場合の相続人の立場、そして相続人が遺言執行者を兼任する場合の注意点について、相続の専門家である司法書士が詳しく解説します。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、法的な権限と義務を与えられた人のことです。遺言者に代わって、遺言の執行に必要な一切の事務処理を行います。
遺言執行者の主な役割は以下の通りです。
- 相続財産の目録を作成する
- 相続人全員に遺言の内容を通知する
- 預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)など、具体的な相続手続きを行う
2019年7月の民法改正により、遺言執行者の法的な地位が明確化されました。改正前は「相続人の代理人」とみなされていましたが、改正後は、遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」(民法第1012条1項)と定められました。これにより、相続人の利益のためではなく、あくまで故人(遺言者)の意思を実現することを第一の使命とする独立した立場であることが明確になりました。
遺言執行者がいる場合の相続人の立場
遺言執行者が選任されている場合、相続人の権限には法律上の制約が生じます。
民法第1013条により、遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産の処分その他、遺言の執行を妨げる行為をすることができません。 もし相続人がこの規定に違反して財産を処分した場合、その行為は法的に無効となります。
ただし、2019年の民法改正で重要な点が追加されました。それは、この無効を善意の第三者(遺言執行者の存在を知らずに取引した第三者)に対抗することはできないと明記された点です(民法第1013条2項)。これは、相続人と取引する第三者を保護するための重要な規定であり、法改正による大きな変更点の一つです。
このように、遺言執行者には遺言内容を実現するための強力な権限が与えられており、相続人には遺言執行に協力する義務があります。
相続人が遺言執行者を兼ねることはできる?
遺言執行者には、相続人の一人を指定することも可能です。しかし、そこにはいくつかの注意点があります。
法律上の可否
法律上、未成年者や破産者でなければ(民法第1009条)、相続人が遺言執行者になることに何の問題もありません。
相続人を指定する際の注意点とトラブル事例
相続人を遺言執行者に指定することは法的に可能ですが、利益相反の立場になりやすく、トラブルの原因になりやすいため、必ずしも推奨されるわけではありません。
- 他の相続人から不満や疑念を招きやすい
遺言執行者となった相続人に多くの財産を相続させる内容の遺言だった場合、他の相続人は「財産管理を不公平に進めているのではないか」「財産を隠しているのではないか」といった疑念を抱きがちです。 - 相続手続きに関する専門知識が不足している場合、手続きが滞る可能性がある
相続手続きは複雑で、専門的な知識が要求される場面も少なくありません。知識不足から手続きが遅延したり、間違いが生じたりするリスクがあります。 - 相続人間の感情的な対立が、公平な遺言執行を難しくすることがある
相続人間の関係が良好でない場合、感情的な対立が冷静な判断を妨げ、公平な職務遂行が困難になることがあります。
トラブルを防ぐための対策
相続人を遺言執行者に指定する場合、以下のような対策を講じることでトラブルのリスクを軽減できます。
- 遺言書で選任理由を明記する なぜその相続人を遺言執行者に選んだのか、具体的な理由を遺言書に記載しておくことで、他の相続人の理解を得やすくなります。
- 報酬について明記する 相続人が執行者になる場合、報酬は無報酬とすることが一般的ですが、トラブル防止のため、報酬の有無や金額について遺言書に明記しておくと安心です。
- 第三者の専門家を選任する 相続人間の対立が予想される場合や、手続きを円滑・公平に進めたい場合は、利害関係のない中立な第三者である士業の先生を遺言執行者に指定することが最も確実な対策です。
遺言執行者の権限と義務のポイント
遺言執行者には、法律で定められた特別な権限と、果たさなければならない義務があります。
遺言執行者だけができること
以下の行為は、遺言執行者のみが行うことができると法律で定められています。これらの権限は、相続人の意思に関わらず、故人の遺志を確実に実現するために不可欠です。
- 子の認知 遺言による子の認知届は、遺言執行者だけが提出できます。
- 推定相続人の廃除・取消し 遺言に基づき、特定の相続人の相続権を剥奪する「廃除」や、それを取り消すための家庭裁判所への申立ては、遺言執行者のみが行えます。
- 特定遺贈の履行 「A不動産をBに遺贈する」といった、特定の財産を特定の人に渡す「特定遺贈」の手続きは、遺言執行者だけが行うことができます(民法第1012条2項)。2019年の民法改正でこの点が明確化されました。これにより、仮に一部の相続人が遺贈に反対していても、遺言執行者の権限で手続きを進められるため、受遺者はスムーズに財産を取得できます。
- 一般財団法人設立を目的とする財産の拠出 遺言によって一般財団法人を設立する場合、そのための財産を拠出する手続きは遺言執行者のみが行えます。
遺言執行者に課される主な義務
遺言執行者には、民法で主に以下の4つの義務が課せられています。
- 就任と遺言内容の通知 任務を開始したら、遅滞なく、全ての相続人に対して遺言執行者に就任したことと遺言の内容(例:遺言書のコピーを送付)を通知しなければなりません(民法第1007条2項)。
- 相続財産目録の作成と交付 不動産、預貯金、負債など、全ての相続財産を調査し、財産目録を作成して、全ての相続人に交付する義務があります(民法第1011条)。
- 遺言内容の実現 遺言書の記載に従い、預貯金の解約・分配、不動産の名義変更、負債の支払いなど、具体的な手続きを実行します。
- 任務完了の報告 全ての執行業務が完了したら、その経過と結果を相続人に報告しなければなりません。この義務は、委任契約に関する規定(民法第645条)が準用されることによります(民法第1012条3項)。
まとめ
遺言執行者は、遺言者の最後の意思を確実に形にするための、極めて重要な存在です。特に、相続人同士の利害が対立しやすいケースや、手続きが複雑になりがちな不動産・預貯金・遺贈を含む相続では、誰を遺言執行者に指定するかが、相続の成否を大きく左右します。
相続人を遺言執行者に指定することも可能ですが、感情的な対立や不信感からトラブルに発展するケースは少なくありません。また、相続手続きには戸籍収集、財産調査、金融機関対応など専門的な知識と実務経験が不可欠であり、負担は想像以上に大きいものです。
そこで有効なのが、相続実務の専門家である士業の先生を遺言執行者として指定する遺言書を作成することです。行政書士含め、士業の方であれば、利害関係のない中立な立場から、法令に基づき、遺言内容を正確かつ円滑に執行します。相続人間の調整や煩雑な事務手続きも一任できるため、相続人の精神的・時間的負担を大きく軽減できます。
「自分の死後、家族に余計な負担や争いを残したくない」
「遺言の内容を、確実に実行してほしい」
そのようにお考えの方こそ、遺言書の作成段階から、行政書士含め士業の方を遺言執行者として指定することが重要です。遺言内容の検討から、執行者指定を含めた遺言書作成まで、専門家が丁寧にサポートいたします。
将来の相続に少しでも不安を感じている方は、ぜひ一度、遺言・相続を専門とする行政書士へご相談ください。
「争わない相続」への第一歩は、正しい遺言書作成から始まります。


