遺贈とは?相続人以外に財産を遺す方法と遺言書の書き方を解説

長谷川 亮又
行政書士・宅地建物取引士・公認不動産コンサルティングマスター・不動産会社代表
1969年生まれ、AB型。学生時代に宅地建物取引士を取得。事業用不動産仲介を経て、家業にて地域密着型の実務を経験。平成17年に空間計画エステート有限会社を設立し、不動産仲介から管理まで一貫したサービスを提供。令和5年に行政書士登録。「不動産×法務」の両面から、専門性の高いトータルサポートを実践しています。

相続は「家族に財産を引き継ぐもの」と考えられがちですが、実際にはそれだけではありません。長年連れ添った内縁のパートナーや、献身的に支えてくれた友人・知人、あるいは社会のために役立てたい団体など、「本当に財産を託したい相手」が相続人以外であるケースも増えています。しかし、法律上のルールだけに任せてしまうと、こうした想いは実現されません。

そこで重要になるのが、遺言書による「遺贈」という仕組みです。遺贈を正しく活用すれば、法定相続の枠にとらわれず、自分の意思で財産の行き先を決めることができます。一方で、書き方や内容を誤ると、手続きが複雑になったり、相続人とのトラブルにつながるおそれもあります。

この記事では、相続人以外に財産を遺したいと考えている方に向けて、遺贈の基本から具体的な書き方、注意点までを分かりやすく解説します。ご自身の想いを確実に形にするために、押さえておくべきポイントを一つひとつ確認していきましょう。

面倒な相続手続き、専門家にお任せ下さい
目次

はじめに:相続人以外に財産を遺したいときは「遺贈」を活用する

「遺贈」とは、遺言書を作成することによって、自分の財産の全部または一部を特定の人や団体に贈ることを指します。

通常、人が亡くなった際の財産は、法律で定められた「法定相続人(配偶者、子供、親、兄弟など)」が引き継ぎます。しかし、現代の多様な人生の形においては、相続人以外に財産を託したいケースも少なくありません。

  • 内縁のパートナー: 長年共に暮らしていても、法的な婚姻関係にない場合は相続権がありません。
  • お世話になった第三者: 介護を献身的に支えてくれた知人や、特に親しくしていた友人。
  • 孫や子の配偶者: 子が健在であれば孫は相続人ではなく、子の配偶者も法律上の相続権は持っていません。
  • NPO法人、自治体、学校など: 社会貢献のために寄付をしたいという場合。

これらの方々に財産を渡すためには、遺言書による「遺贈」が不可欠です。

「相続させる」と「遺贈する」の使い分け

ここで、実務上非常に大切な「言葉の使い分け」について触れておきます。

  • 相続人に対しては「相続させる」 と記載します。これにより、不動産の名義変更などの手続きを簡略化できるメリットがあります。
  • 相続人以外に対しては「遺贈する」 と記載します。

たとえ一言の差であっても、この使い分けを正しく行うことが、後の手続きをスムーズに進めるための第一歩となります。

遺贈の2つのカタチ:包括遺贈と特定遺贈の違い

遺贈には「包括遺贈(ほうかついぞう)」「特定遺贈(とくていいぞう)」の2種類があります。どちらを選ぶかによって、受け取る側の責任や手続きの負担が大きく変わるため、慎重に検討する必要があります。

包括遺贈

財産を個別に指定せず、「全財産」や「財産の4分の1」といったように、全体の割合を指定して渡す方法です。 包括遺贈を受けた人(受遺者)は、相続人とほぼ同じ権利義務を持ちます。そのため、プラスの財産だけでなく、借金などの「マイナスの財産」も割合に応じて引き継ぐことになります。また、遺産を具体的にどう分けるかを決める「遺産分割協議」にも参加しなければなりません。

特定遺贈

「〇〇銀行の預金」「△△にある自宅」というように、特定の財産を指定して渡す方法です。 指定されたものだけを受け取るため、原則として亡くなった方の借金を引き継ぐことはありません。手続きも特定の財産に限定されるため、受遺者にとって分かりやすいのが特徴です。

比較表:包括遺贈と特定遺贈の違い

比較項目包括遺贈特定遺贈
対象財産の指定方法全部、または一定の割合(3分の1など)特定の個別の財産(預金、不動産など)
借金(負債)の承継指定された割合に応じて引き継ぐ原則として引き継がない
遺留分への影響相続人と同様に遺産分割協議に参加原則として分割協議への参加は不要
放棄の期限と方法知った日から3ヶ月以内に家裁へ申述いつでも可能(他の相続人への意思表示)
不動産取得税相続人以外でも非課税相続人以外は課税される(原則3%)

【ケース別】遺贈する遺言書の文例集

想いを確実に形にするためには、第三者が読んでも迷わない、正確な表現が求められます。ここでは、実務でよく使われる標準的な文例を紹介します。

全財産を特定の人に遺したい場合(包括遺贈)

一人の人に、自分のすべてを託したいときの書き方です。

文例
「遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、乙山花子(昭和〇年〇月〇日生、住所:〇〇県〇〇市……)に包括して遺贈する。」

【知っておきたいポイント】 「一切の財産」と書くことで、把握しきれていない財産も含めてすべてをカバーできます。「包括して」という文言を入れることで、法的な性質を明確にしています。ただし、先述の通り受遺者は借金も引き継ぐことになるため、あらかじめ負債の有無を伝えておく配慮も大切です。

特定の預貯金を遺したい場合(特定遺贈)

「このお金はあの方に」とピンポイントで指定する書き方です。

文例
「遺言者は、遺言者の有する次の預貯金を、乙山花子(昭和〇年〇月〇日生、住所:〇〇県〇〇市……)に遺贈する。
1.〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇
2.ゆうちょ銀行 記号〇〇〇〇〇 番号〇〇〇〇〇〇〇」

【知っておきたいポイント】 銀行名、支店名、口座種別、口座番号を正確に記載してください。通帳の表紙を開いたページ(名義人や番号が詳しく書かれた箇所)を見ながら書き写すのが確実です。番号が一桁違うだけで、銀行での手続きが止まってしまうこともあるため、細心の注意を払いましょう。

特定の不動産(土地・建物)を遺したい場合(特定遺贈)

住まいなどの不動産を託す際の書き方です。

文例
「遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、乙山花子(昭和〇年〇月〇日生、住所:〇〇県〇〇市……)に遺贈する。

  1. 土地
    所在:〇〇市〇〇町〇丁目
    地番:〇番〇 地目:宅地
    地積:〇〇.〇〇平方メートル
  2. 建物
    所在:〇〇市〇〇町〇丁目〇番地
    家屋番号:〇〇番〇〇
    構造:木造瓦葺2階建
    床面積:1階〇〇.〇〇平方メートル、2階〇〇.〇〇平方メートル」

【知っておきたいポイント】 最大のポイントは、普段使っている住所(住居表示)ではなく、法務局で取得できる「登記事項証明書(登記簿)」の記載通りに書くことです。特に「地番」と「住居表示」は異なることが多いため、必ず登記簿を確認してください。これに不備があると、名義変更の手続きができなくなってしまいます。

条件や負担を付ける場合(条件付遺贈・負担付遺贈)

単に財産を渡すだけでなく、特定の出来事をきっかけにしたり、役目を託したりすることもできます。

  • 条件付遺贈(例:大学入学後に渡す)
    「遺言者は、乙山花子が大学に入学したときは、後記預金を同人に遺贈する。」
  • 負担付遺贈(例:妻の生活を支えてもらう)
    「遺言者は、後記不動産を乙山花子に遺贈する。受遺者 乙山花子は、その負担として、遺言者の妻〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に対し、同人が生存中、その生活費として月額〇〇万円を毎月末日までに支払うものとする。」

【知っておきたいポイント】 「大学入学」などの停止条件が付いた場合、その条件が成就したときに初めて遺贈の効力が発生します。また、負担付遺贈の場合は「生活費として月額〇〇万円」のように、具体的な内容を定めることで、後のトラブルを避けることができます。

受遺者が先に亡くなった場合に備える(予備的遺言)

ここは非常に見落としやすい、極めて重要な点です。遺贈の場合、財産を受け取る予定の人が、遺言者よりも先に亡くなってしまうと、その遺贈の効力は失われます。相続の場合と異なり、その人の子供が代わりに受け取る(代襲相続)という仕組みは、遺贈にはありません。

文例
「万一、遺言者の死亡以前に乙山花子が死亡していたときは、遺言者は、同人に遺贈するとした財産を乙山次郎(乙山花子の長男)に遺贈する。」

このように「予備的」な指定をしておくことで、自分の死後に財産が宙に浮いてしまったり、不本意な形で相続人間で分配されたりするのを防ぐことができます。

面倒な相続手続き、専門家にお任せ下さい

確実に行うための準備:受遺者の特定と住所の証明

せっかくの遺言書も、受遺者が誰であるか客観的に特定できなければ意味をなしません。

住民票に基づいて記載する

受遺者の指定には、以下の3点を住民票の通りに正確に書くことが基本です。

  1. 氏名(フルネーム)
  2. 生年月日
  3. 住所

住所が変わっても「繋がり」が証明できれば大丈夫

遺言書作成後に受遺者が引っ越しをしたとしても、遺言書が直ちに無効になるわけではありません。役所で取得できる「住民票の除票」などを使い、遺言書記載の住所から現在の住所までの繋がりを証明できれば、手続きは可能です。 特に2014年(平成26年)6月20日以降に消除された除票などは、保存期間がこれまでの5年から「150年」に大幅に延長されました。これにより、「昔住んでいた住所」の証明が非常に容易になり、数十年前に書いた遺言書であっても、同一人物であることをスムーズに証明できる環境が整っています。

遺言をスムーズに実現するための「遺言執行者」の指定

相続人以外への遺贈を行う際、「遺言執行者」の指定は必須といっても過言ではありません。

通常、遺贈の手続き(預金の払い戻しや不動産の登記)には、相続人全員の協力(署名捺印や印鑑証明書の提供)が必要になるのが原則です。しかし、相続人の中に遺贈に反対する人が一人でもいると、手続きが滞ってしまいます。

ここで遺言執行者を指定しておけば、その人が相続人の代表として、単独(または受遺者と共同)で手続きを進めることができます。相続人の協力がなくても遺贈を実行できるため、受遺者の心理的・事務的負担を劇的に減らすことができます。

専門家からのアドバイス:

  • 受遺者本人を指定することも可能です: 例えば内縁のパートナーを受遺者兼遺言執行者に指定しておけば、その方は自分一人で手続きを完結でき、他の親族との接触を最小限に抑えることができます。
  • 信頼できる専門家に依頼する: 内容が複雑な場合や、親族間の対立が予想される場合は、司法書士などの専門家を執行者に指定しておくと、より公平かつ確実に手続きが進みます。

注意しておきたい大切なポイント(遺留分・農地・税金)

後のトラブルを防ぎ、受遺者が困らないようにするために、以下の3つのポイントは必ず押さえておきましょう。

遺留分(いりゅうぶん)への配慮と「付言事項」

配偶者や子供などの近親者には、法律上、最低限受け取れる取り分「遺留分」が認められています。全財産を相続人以外に遺贈するような内容にすると、後で相続人から受遺者に対して「遺留分に相当するお金を返してほしい」という請求(遺留分侵害額請求)がなされる恐れがあります。

トラブルを避けるためには、以下の対策が有効です。

  • あらかじめ遺留分を侵害しない範囲で遺贈額を調整する。
  • 遺言書の最後に「付言事項(ふげんじこう)」を添える。「なぜこの人に遺贈したいと思ったのか」という真摯な想いを綴ることで、相続人の心情的な理解を得やすくなり、請求を思いとどまらせる効果が期待できます。

農地の遺贈に関する特有のハードル

もし遺贈する財産に「農地」が含まれている場合、注意が必要です。

  • 特定遺贈の場合
    農地法の許可がないと、名義変更(登記)ができません。この許可はハードルが高く、取れない場合は遺贈が実現できなくなります。
  • 包括遺贈の場合
    相続人以外への遺贈であっても、農地法の許可なしで登記が可能です。 農地を遺したい場合は、どちらの形式が適切か、あらかじめ専門家に確認しておくことを強くお勧めします。

発生するコストの差

遺贈には、相続とは異なる税負担が生じます。

  • 相続税の2割加算
    一親等の血族(子供・両親)や配偶者、代襲相続人である孫以外が財産を受け取る場合、相続税額が2割増しになります。
  • 登録免許税の差
    不動産の名義変更にかかる登録免許税は、相続人なら0.4%ですが、相続人以外への遺贈(特定遺贈)の場合は「2.0%」と5倍の税率になります。
  • 不動産取得税
    特定遺贈で相続人以外が不動産を取得する場合、相続ではかからない「不動産取得税(固定資産税評価額の3%程度)」が課税されます。

公正証書遺言のススメと専門家への相談

遺言書には自分で書く「自筆証書遺言」もありますが、一文字の間違いや形式の不備(日付の欠落など)で無効になってしまうリスクが常にあります。特に第三者への遺贈は、相続人からの反発を受けやすいデリケートなものです。

そこで、私たちが強くお勧めしているのが「公正証書遺言」です。 公証人という法律の専門家が作成するため、形式的な不備で無効になる心配がありません。また、原本が公証役場で厳重に保管されるため、紛失や偽造の恐れもなく、最も安全で確実な方法です。

「自分の想いが正しく伝わるだろうか」「後で揉めないだろうか」と少しでも不安がある場合は、行政書士などの専門家にご相談ください。実務の現場を知るプロが、あなたの想いを法的にも心情的にも円満な形で遺せるよう、二人三脚でサポートいたします。

まとめ

遺贈は、法定相続の枠を超えて「誰に、どのように財産を遺すか」というご自身の想いを実現できる大切な手段です。しかしその一方で、言葉の使い分けや財産の特定方法、遺留分への配慮、税金や手続き面の違いなど、専門的な知識が求められる場面も多くあります。わずかな記載ミスや判断の違いが、思わぬトラブルや手続きの停滞につながることも少なくありません。

だからこそ、確実かつ円満に想いを形にするためには、公正証書遺言の作成を検討することが重要です。公証人が関与することで法的な不備を防げるだけでなく、専門家のサポートを受けることで、ご自身の意図をより正確に反映した内容に仕上げることができます。

当事務所では、行政書士として公正証書遺言の作成をトータルでサポートしております。複雑な遺贈の内容であっても、実務経験に基づき、トラブルを未然に防ぐご提案を行います。

「誰にどのように遺したいのか」「この内容で問題がないか」など、少しでも不安や疑問がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
次の一歩として、下のお問い合わせバナーからお気軽にご連絡いただければ、あなたの想いを確実に実現するお手伝いをさせていただきます。

面倒な相続手続き、専門家にお任せ下さい
目次